Hello, I'm from England! | 活版印刷室 HACHIYA

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2020/08/05 12:00

「テキン」もしくは「手フート」について

画像の活版印刷機は、「テキン」とか「手フート」といわれています。
正式名称は「平圧印刷機」といいますが、名刺やハガキなど小さいサイズの端物(はもの)印刷に使われます。
このテキンですが、100年くらい前からほとんど形は変わっていません。
というか、今ではほとんど作られていません。国内でもわたしが知るかぎりでは一社しか生産していないと思います。
ネットオークションや中古販売ショップで、たまに出品されますが、あまり数は出回りません。
テキンを手に入れて使用することを、みなさん「テキンを飼う」といいます。
無骨ながら、メカメカしていないシンプルな構造。骨董品のような重厚さがあり、でもまだまだ現役で働ける頑張り屋。
そのようなキャラクターがみんなに愛されるからでしょうか。
わたしも、このテキンが大好きで、これで活版印刷をするときは幸せすら感じますww

Adana letterpress printing machine HS2

「アダナ社活版印刷機 HS2式」。これがこのテキンの商品名です。
この機械は80年前(!)に作られたものです。自分の2倍近く生きてきたのですね。
両親よりも年寄りです。
10kg以上あり、とてもゴツイ外見ですが、印刷できる面積は8×5インチ。
cm換算しますと、約20㎝×13㎝ですので、ハガキがぎりぎり印刷できるかできないかというサイズです。
とてもかわいいテキンです。
これから端物印刷をしていきたいと思いましたので、新たに購入を決めました。
給紙 ⇒ 印刷 ⇒ 排紙をすべて人の手で行なう印刷機ですから、100%ハンドメイドの印刷を行います。
大変手間のかかる印刷技術です。普通のデジタル印刷にくらべて高価に感じられるかもしれません。
でも、手間をかけて得られる素晴らしさが活版印刷にはあるのです。

「活版印刷」は、今から550年くらい前にヨーロッパで生まれました。
それから500年間の長いあいだ、印刷の中心として長く活躍してきた技術です。
この技術で生み出される印刷物は、機能美と芸術的な美しさをあわせ持ちます。
「用」の美を体現しており、ひとつの工芸品であると思います。
活字とよばれる金属のハンコのようなものにインキをつけ、厚めの紙に押しつけますと、印刷された文字の部分がへこんで出来上がります。
凸凹の面白み、一枚一枚ていねいに刷ることでできる一枚一枚の個性。
世界で一枚だけのものを持てることは、活版印刷の大きな大きな魅力であり、デジタルの印刷では味わえないものです。
いまでは、かんたんで手軽なデジタルの印刷技術や、パソコンとプリンターの一般化によって、活版印刷はその火が消えようとしていますが…。

I'm from England.


わたしはこのテキンをイギリスのオークションで入手しました。
欧米や台湾のオークションでは、おおくのテキンが出品されています。うらやましいですね。
でも、テキンは作られてから長い年月がたっていることがふつうですので、現状の確認が大切です。
オーナーの使い方やテキンへの愛情によって、機械の状態がぜんぜん違います。
オーナーと話すことや、状態をよく確認することが、良いテキンを「飼う」ために大事なことなのです。
オークションで、しかも現状の確認を満足にできない海外で購入することは、運にたよるギャンブルのようなもので、おすすめできませんww
わたしの入手したテキンは、とてもよい状態のものでした。
届いた箱をドキドキしながら空けましたが、このテキンをみた瞬間にうれしさよりもあたたかい温もりを感じました。
サビひとつなく、汚れもなく、よく油がさしてあって、大切に大切に使われていたことがよく分かるテキンでした。
油も良いものが使われているようで、とても良い匂いがしました。
動きもストレスなくスムーズですし、印圧も問題ありません。わたしはとっても幸運な出会いを果たせました。

新しい相棒が加わりました。
これからも活版印刷したものを、みなさんに気軽にお使い頂けるように頑張って参ります。
活版印刷室 HACHIYAを、これからも、よろしくお願いいたします。